CUSTOMER STORY
JRCS株式会社:デジタル技術で海上物流を革新
船舶機器製造のノウハウと新しい価値の創出
JRCSの歩み
JRCSは1948年に船舶用無線や航海計器の製造からその歴史を刻み始め、75年以上にわたり革新と成長を遂げてきました。現在では、LNG(液化天然ガス)運搬船の航行データを計測する計器類などの「計装システム」と、配電盤をはじめとした「動力システム」を一括で提供する世界初のメーカーとして、国内外で揺るぎない信頼を得ています。高品質を維持するためにすべて国内で自社開発・生産を行い、世界中の8,000隻を超える船舶にその製品が採用されています。また、世界各国にサービス拠点を展開し、販売からアフターサービスまで一貫して行うことで、世界中の安全で効率的な航行を支え続けています。
新たな柱となるデジタル事業の創出
変革の背景
海上輸送は国内外の物流手段として日本経済の基盤を支える重要な要素です。しかし今、海運業界の現場では、新たな知識や技術の習得が求められ、緊張感ある乗務が続く中、高齢化と人手不足という課題に直面しています。こうした背景の中、JRCSは船舶設備の更新やメンテナンス、新たなソフトウェア開発を通じて、新たな事業領域を開拓し、持続可能なビジネスモデルを構築することを目指しました。
イノベーションの推進
JRCSの「デジタル イノベーション ラボ (DIL)」は、同社の変革をリードする社内スタートアップとして設立されました。現在ではR&D組織として新技術の評価と実現可能性の追求、ロードマップの作成、市場へのプロダクト投入を担っています。
DIL設立当初は、ハードウェア製造中心のビジネスモデルからソフトウェア企業へのシフトは困難を極めました。JRCSにはデジタルを駆使した製品開発のノウハウがなかったため、その変革の支援をSlalomに依頼するとともに、製品機能を開発するパートナーとしてマイクロソフトとの協業を開始しました。
初めに、SlalomはJRCSにアジャイル開発手法を導入する支援を行いました。これは、従来のウォーターフォールが主流だった同社にとって大きな変化であり、その後の活動の基盤となりました。続いて、12週間にわたりアイデアを練り上げ、長期戦略を策定しました。その結果、最小限の実用的な製品 (MVP) の構築方法と全体像が明確になり、JRCSチームはプロダクトロードマップ、アーキテクチャとサービス設計、機能リストなどの開発に必要なツールを揃えることができました。さらに、わずか9ヶ月で最初の顧客に航行時の意思決定支援ソリューションを提供し、変革への取り組みが確実に成果をもたらすようになりました。
デジタル事業部門の創設
JRCSは、飛躍的に進化するデジタル技術を活用して海洋事業のイノベーションを加速するとともに、長年培ってきたレガシー製品のノウハウと最新技術の融合による新たなビジネスを創出するため、新たな柱としてデジタル事業 (船舶DX) 部門を設立しました。この部門は「infoceanus(インフォシアナス)」というブランドのもとで、AIを駆使して船舶の安全航行を支援する意思決定ソリューションや、MR(複合現実)デバイスに経験豊かな船員・技師のナレッジを集約したメンテナンスソリューションを提供しています。また、海運業界各社がパートナーシップを組み、推進している無人運航船プロジェクトでは、infoceanusが無人運航の実現に欠かせないソフトウェアとして活用されています。
イノベーション文化の浸透
全社的な変革マインドの醸成
JRCSは企業文化や人材の変革も重視し、全社に変革への意識を浸透させるための取り組みを継続的かつ日常的に行なっています。ビジネス部門と開発部門の頻繁な会議を通じて、顧客のフィードバックや予算、コスト、開発作業などの情報を透明性高く共有し、製品開発やサービスに柔軟に反映しています。これにより、組織全体が一貫した方向性のもとで市場や顧客の変化にアジャイルに対応できるよう進化しています。また、開発部門のエンジニアは自らデジタル技術の情報収集やスキル習得を行うようになり、変革の成果が顕在化しています。さらに、多様な経験や考え方を持つ外国籍の従業員も採用し、さまざまな発想を取り入れることで組織の融合を図り、若手社員との協働による技術力向上を目指しています。
また、JRCSは製造や事務部門の現場におけるデジタル人材育成にも力を入れています。自社の取り組みを“デジタル化”で終わらせることなく、JRCSをより良く変革するという目標に向け、業務プロセス改善や生産性向上を推進しています。
顧客かつパートナーとして進化
新しい技術を検証し、顧客からのフィードバックを得るために、JRCSは顧客をパートナーと捉えて密接に協力しています。例えば、フェリー会社とのパートナーシップを結び、実際の船舶で新しい技術をテストしています。そして、定期的なレビューを通じて、顧客の満足度向上と海運業界における働き方の変革を実現しています。具体的には、社内に擁するエクスペリエンスデザイナーやアーキテクトのメンバーを中心に、顧客によるレビューを細かく反映させながら、ユーザーエクスペリエンス(UX)とカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上に努めています。
"長年培ってきたハードウエアのノウハウとデジタルの技術を融合させ、海と陸の両方で国際物流を支え続ける。
それがJRCSのDXが目指すものです。"
JRCS株式会社 執行役員 Chief Digital Officer (CDO) 空 篤司 様
デジタル事業の知見を次の変革へ
JRCSのビジョンは、海洋事業全体の魅力を持続的に高めることです。新たなデジタル技術を駆使し、製品・ソリューションの顧客価値を向上させ、新たな市場を創出し続けることを目指しています。特に、拡大するデジタル事業で得た知見とノウハウを、75年に渡り培ってきた海洋事業の計装・動力機器製造と融合し、コアビジネスの提供価値やビジネスモデルを再定義することで持続可能な成長を追求しています。また、海上物流を支える技術とノウハウを陸上の社会インフラに展開し、さらに広範な産業を支える基盤としての役割を果たせるよう取り組み続けています。