
概要
IIMヒューマン・ソリューション株式会社(以下、IHS)は、企業のシステム運用全般におけるサポート事業を基軸としながら、多くの企業における業務のデジタル化、業務を担うデジタル人材の育成を支援しています。順調に事業拡大を続けている一方で、代表取締役社長の関マサエ氏は一つの転機を感じていました。
その背景には、「新たなサービスの立ち上げ」そして「それを支える組織の在り方の見直し」という二つの課題が同時に存在していました。
SlalomとIHSは2021年、新しい働き方と新規事業の企画を推進する土台作りを開始しました。プロジェクト終了後もIHSは進化を続け、4年の歳月をかけて0円だった新規事業を全体収益の4分の1にまで成長させています。その挑戦の裏側を、代表取締役社長・関マサエ氏にSlalom アジャイルコーチの知花里香がインタビュー形式で伺いました。
事業成長と組織拡大の過程で見えた「変えるべきこと」
知花:
関さん、2021年のプロジェクトは御社の「第二創業期」と位置づけられると思いますが、まずはその背景から教えていただけますか?
関社長:
はい。当時は16期を迎えるタイミングで、会社の規模も大きくなっていました。拡大するにつれ、いろいろなことがうまく進んでいるように見えて、“実は変えないといけないこと”があるんじゃないか・・・という思いが浮かび上がってきたんです。新規事業をやろう!って話をする中でも、じゃあ会社全体でどう回していくかがわからない。新しい運営の形が明確じゃなかった気がしましたね。当時を振り返ると。
大きな勇気を振り絞ってSlalomに依頼
知花:
なるほど。そのような思いから、Slalomとの協業が始まったのですね。ちなみにこれまで外部からの支援は受けてきましたか?
関社長:
いいえ、ほぼありません。実はあの時Slalomさんにお願いすることは、大きな崖から飛び降りるぐらいの勇気が必要でした。金額も私たち中小企業にとっては大きいですし、どうなってしまうのだろうと。国の補助金なども活用させてもらいながら、依頼しました。
知花:
そうだったのですか!実際どうでしたか?支援を受けられてみて。
関社長:
これまで気にしてこなかったことや、新しい知識にたくさん触れることができて面白かったです。ただ、現場は正直なところ、時間の工面が大変でしたね。負荷をかなりかけてしまって、反省です。
知花:
そうでしたね。最初に実践したのはリーダー層でスクラムチームを組み、社内のプロセスや新規の事業を考える、ということをしていましたが、皆さん既存の仕事もありながら進めていらっしゃいました。
関社長:
一方で、経営者として興味深かったのは、個人個人にも思考の違いがあるのだと、気づけたことです。だんだんとチームが改善していく様をみられたり、役割の意識を再考することができたりと、とても勉強になりました。当時は誰がどんな役割で、何に責任を持ってやるのかが、曖昧だったのですよね。そんなことにも気づかされました。
プロジェクトが終わった後も、新規事業チームは朝会など続けていますよ。わからなくなったことはMiroボードに立ち返って整理したりね。
知花:
素晴らしい!一つ一つの活動が根付いているようで嬉しいです。
考えて動ける現場を作る - 権限移譲への挑戦
知花:
現場のリーダーの皆さんのコミュニケーションや活動はどのような変化を遂げられているのでしょうか?
関社長:
そうですね。これまでは、どちらかといえば私が「やりたいことを伝えて、皆を引っ張っていく」スタイルでした。それをどう「権限移譲」していくか、テーマの一つでした。
当初、事業開発も組織運営も含め「権限移譲して現場に考えることを任せた」このプロジェクトの実践を始めた頃は、簡単には語れないほど、色々なことが起きたり問題が噴出したんですよ。
でも、「絶対これだけは信じてやったほうがいい」ということも見えてきて。そういったポイントはブレることなく、進めていきました。
お陰様で、権限移譲は最近さらに加速していますね。少しずつですが、変化があります。私にも組織にも。それらの土壌を作ってくださったSlalomさんに出会えたことは本当に感謝しています。
私たちのような中小企業に、お付き合いしてくださって、しかも私たちの方をちゃんとみてくれて、ペースを合わせてくれて。
知花:
ありがとうございます。それを聞けてとても感動しています。新しい挑戦や変化を社内に取り込んでいくのは、本当に大きなチャレンジだったと、改めて思います。
社員の方々の変化で言うと、実際どんなことがありましたか?
関社長:
問題を前にすると、以前は控え目だったのが、皆もっと前に出ようとしますね。一緒に考えようとか、皆でそれを前に進めようという風土が生まれたと思います。冷ややかにみていたメンバーが、熱量高く事業のプロセスの課題と今後の動き方を提案してくれたこともあります。
そういったことも積み重なって今は以前よりも難易度が高いことに挑戦しているので、対峙する大変さは変わらないのですが、常に漸進を感じます。
そしてなんとその新規事業が、0だった当時から、全体の売り上げの4分の1を占めるまでに成長していたんですよ!すごくないですか?4年かかりましたけれど、ここまで来ることができました。
あの時思い切って飛び込んで挑戦して、歯を食いしばって続けていなかったら、我が社は潰れていたと思います。それぐらい、Slalomさんとの取り組みは、私たちにとって大きな影響のある取り組みでした。
関社長:
それから私は、人材育成に対する考え方も変わりました。いい人材をつくるには、それなりに金額を投資すべきだと。それに加えて、研修にお金をかけるのもいいけれど、一人で行くとどうしても一人のものになってしまう節が弊社にはあります。ですからそれよりは、前のように大きな金額を投資して、チームでOJDを体験できるほうが、コミットメントも生まれますし、体に染み込んでいきますね。それは改めて気づいたことです。
また、私自身もプロジェクトのオーナーとして役割を意識しながらスクラムチームの活動に入れてもらえたことで社員と一緒にサービスを作り上げる一体感が生まれました。だからこそ、研修後も1日も休むことなくディリーミーティングを新規サービスチームと一緒に継続できたのだと思います。
知花:
私は短い期間ですが、ぎゅっと皆さんと濃密な時間を過ごさせていただく中で、印象的だったのは「こんなの無理です」「意味ないです」と言ったような言葉は一切なかった。厳しい時でも“ジリジリ”と粘る。「もう一歩、後もう少しいいアイデアないか。どうしたらできるだろう」という、Growth Mindsetっていうんですけれど、そんなみなさんでした。Agileだけではなく、新しいことに挑戦する際にそういった心持ちって本当に大切ですよね。
関社長:いい答えが出ているのは別として、確かに諦めずに、愚直に自分ごととして考えていますね。 本当に今、社員のみんなが成長していると思っていて。これからも諦めることなく、そのまま螺旋階段のように、挑戦しながら自走をし続けてほしいと期待しています。
次の視点は「海外」と「次の創造」
知花:
今後の展望についてもお聞かせいただけますか?
関社長:
現在立ち上げて運用している事業は、Microsoft 365の支援サービスなのですが、ローコード・生成AIを中心に、さらに発展させていきたいと思っています。また、シンガポールなど海外にも展開できるポテンシャルがあると思っています。すでに複数のお問い合わせをいただいているので、リモートでも対応可能な環境づくりやIHSならではの強みを作り出すことをしたいと思っています。 アジアの中で何か1つのことでもNo.1となることを目標にしていきたいですね。
知花:
素晴らしい!更なる発展、応援しています。最後に、今回の経験を通じてあらためて感じた“事業と組織づくり”に対する想いがあれば教えてください。
関社長:
そうですね、結局、企業の力って「人」なんですよね。制度やルールではなく、対話と信頼が土台になっていく──それは、経営サイドの私自身としても言えることで、権限を移譲して自走していってもらいたい以上は、自分の期待通りに現場の状況がいかなくても、その結果を受け取って、また次に生かせる環境を作る、という気概が必要なのだと思います。今回のプロジェクトを通じて一番感じたことです。
<2021年プロジェクト当時の風景>
このように、事業と組織の進化を同時に実践し学びを続けることで、「挑戦と成長が螺旋階段のように上がっていく結果」が生まれたIIMヒューマン・ソリューションの第二創業期。人を起点とした変革の価値が、ここに確かに示されていました。
考察
ラーニングオーナーシップの醸成
ラーニングオーナーシップ (学びを自らリードする力) は、単なる人材育成ではなく、事業と組織が共に進化するための戦略的土台です。
本記事では、上記の実践を踏まえながら、ラーニングオーナーシップを高めるためのキーポイントや関連するキーワードをいくつかご紹介します。
たとえば、現場主導で学びを行動に変える仕組みは、変化に即応する力を育て、チームが自ら必要な知識を選び、試し、振り返るアジャイルな成長サイクルを可能にします。
また育成のKPIも「研修をやった」から「事業成果にどう寄与したか」へと移行し、満足度よりも行動変容・業務成果が重視されるようになっています。その実現には、少人数でのフォローやパーソナライズされた学習設計、学びを支援するコーチの存在、そして心理的安全性のある関係性が欠かせません。
さらにこれからは、AIやデータなどのデジタルツールを活用することで、学びの可視化・共有を促進し、組織全体の成長に結びつけることがでしょう。
ラーニングオーナーシップを育む仕組みは、人材育成を超えて、組織の変化対応力とビジネス成果を同時に高めるレバレッジとなります。皆さんの組織でも活用をしてみませんか?
話し手の紹介
関 マサエ (Masae Seki)
IIMヒューマン・ソリューション株式会社 代表取締役
2007年にIIMヒューマン・ソリューション株式会社として分社独立と共に代表取締役に就任。派遣業務中心の会社から業務標準化・改善からシステム運用の自動化に関わるサービスを多く展開。2016年にはカンボジアでITサービスを行う子会社を立上げ、現職に至る。
知花 里香 (Satoka Chibana)
Slalom株式会社 アジャイルコーチ・組織活性化コンサルタント
2021年のSlalom日本法人設立初期より参画し、企業のアジャイル導入や現場主導の変革を支援。共創型の組織づくりやチームの自律性向上を得意とし、研修・伴走の両面から実践的な支援を行う。また、女性リーダー育成を目的に「Women in Agile Japan」を創設し、ジェンダー平等や学びのコミュニティづくりにも尽力。米国International Consortium for Agile 認定トレーナー、Scrum Alliance認定スクラム・プロフェッショナル(CSP-SM)、CTI認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC)
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アジャイルトランスフォーメーション
アジャイルの実践、組織内・全社への拡大を検討されている方向けに、アジャイルを駆使したビジネス変革がもたらす効果や実践方法を解説します。